老犬を自宅で看取るには——余命を言われた日からの段取りと過ごし方
最終更新: 2026年8月12日
自宅で看取ると決めたら、整えることは4つです。①安静時の呼吸数の目安を知っておく ②夜間や急変時にどこへ連絡するかを昼間のうちに決めておく ③仕事の休み方を確認しておく ④その日が来たあとの段取りを、一度だけ見ておく。
- 「最期が近いサイン」の一覧は、獣医療の団体の資料には見当たりませんでした。代わりに置かれているのは7項目の採点表です
- 安静時の呼吸が1分40回を超える状態が続くときは、注意の目安とされています
- 有給休暇は理由を伝える義務がありません。看取りの付き添いにも使えます
余命を言われて、このページを開いた方もいると思います。 まず伝えたいのは、自宅で看取るか、最後まで治療を続けるかに正解はない、ということです。 どちらを選ぶかは、かかりつけの獣医師と相談しながら、そのつど決めていってかまいません。
ここでは犬を中心に書いていますが、猫もほぼ同じです。呼吸の目安も、休み方も、段取りの考え方も変わりません。
① 「最期が近いサイン」を探している方へ
この時期、多くの方が「あとどれくらいなのか」を知りたくて検索します。食欲、水、体温、呼吸——並んでいる兆候のリストを、一つずつ自分の子に当てはめた方もいると思います。
そのリストの出どころを追ってみました。結果を先に書きます。
獣医療の団体が出している資料のほうには、「最期が近いサイン」の決定版と呼べる一覧が見当たりませんでした。アメリカの大手動物病院グループが出している飼い主向けのページにも、米国猫獣医師会と国際動物ホスピス緩和ケア協会が2023年に出したガイドラインにも、そういう章はありません。
兆候の話が嘘だ、と言いたいのではありません。ただ、専門家が作った資料が置いているのは別のものだった、ということです。 置かれているのは、その日その日の状態を点数でつけていく採点表のほうでした。
理由は想像がつきます。残り時間を当てることは誰にもできませんが、今日この子が楽に過ごせているかどうかなら、そばにいる人が毎日見て取れるからです。
② 代わりに置かれていた、7項目の採点表
広く紹介されているのは、アメリカの獣医腫瘍医が作った「HHHHHMMスケール」という表です。7つの項目を、それぞれ0〜10点でつけていきます(10が理想の状態)。
※この表はもともと、安楽死を含めた判断の場面で使われているものです。読むのがつらいときは、この節は飛ばして③へ進んでください。
| 項目 | 何を見るか |
|---|---|
| 痛み | 痛みが抑えられているか。呼吸ができているか。酸素の助けが要る状態か。呼吸のつらさは、他のどれより優先して見るとされています |
| 食べているか | 足りているか。手から与えると食べるか |
| 水分 | 足りているか。足りないときは点滴で補う方法もあります |
| 清潔 | 体をきれいにしてあげられているか。排泄のあとは特に。柔らかい寝床で床ずれを避けられているか |
| 気持ち | うれしそうな様子や、何かに興味を示す様子があるか。家族やおもちゃに反応するか。寝床を家族のいる場所の近くに動かせないか |
| 動けるか | 自分で起き上がれるか。人や道具の助けが要るか。ただし原文には、動きが不自由でも、意識がはっきりして機嫌よく反応できるなら生活の質は保てる、と書かれています |
| 良い日と悪い日、どちらが多いか | 悪い日のほうが多くなってきたときは、生活の質が落ちているかもしれない、という項目です |
合計が35点を超えていれば、家でのケアを続けていける状態の目安、とされています。 この表を紹介している動物病院グループのページでは、各項目が5点を超えているか、という見方も添えられていました。
点数そのものより、つけてみて気づくことのほうが大きいかもしれません。 「気持ち」の欄に、寝床を家族のいる部屋に動かせないかという問いが入っているのは、点をつけながら手が打てるようにしてあるからだと思います。
③ 呼吸の目安を知っておく
安静時の呼吸が1分間に40回を超える状態が続くときは、注意のサインの目安とされています。 数えるときは、15秒間じっと呼吸を数えて、その数を4倍するだけで大丈夫です。
苦しそうな様子が見えたら、様子見をせず受診が最優先です。
獣医師の判断・指導のもとで、在宅酸素という選択肢が示されることもあります。 料金の実情は酸素室レンタルの料金比較にまとめています。 基本料金5,000〜15,000円程度に、1日650〜1,980円程度の日額を組み合わせる会社が多いようです。
④ 「緩和ケア」という言葉について
診察室で「緩和ケア」という言葉が出てくることがあります。もう治療は終わりだと言われた気がして、こたえる言葉です。
ただ、資料での定義は少し違いました。緩和ケアは、治る病気の子にも行われるもので、症状をやわらげて楽に過ごせるようにする手当て全般を指すと書かれています。末期の子だけのものではありません。
そのうえで、ホスピスと呼ばれる段階は、治すことを目標にした医療から、楽に過ごすことと生活の質を目標にした医療へ、目標のほうが切り替わった状態と説明されています。 治療をやめる、ではなく、目指す場所が変わる、という書き方です。
同じガイドラインは、家の環境を見直すことも手当ての一つに数えています。ごはんと水に届きやすくすること、寝床を快適にすること、トイレの場所と形を見直すこと。 どれも病院ではなく、家でできることです。
※ここで引いたのは猫についてのガイドラインです。犬にそのまま当てはまるとは限りません。
⑤ 「どこまでやるか」を、先生と話すとき
入院を続けるか、家に連れて帰るか。点滴を続けるか。検査をもう一度やるか。この時期は、決めることが次々にやってきます。
答えを持っているのは獣医師ですが、決めるのは飼い主です。その間を埋めるために、聞き方をいくつか置いておきます。
- この処置は、この子が楽になるためのものですか。それとも時間を延ばすためのものですか
- やらなかった場合、これから何が起こりそうですか
- 家に連れて帰った場合、私にできることは何がありますか
- 痛みや苦しさをやわらげる方法は、今どこまでありますか
- 途中で気持ちが変わったら、方針を変えてもいいですか
最後の一つは、聞いておくと後がずいぶん楽になります。一度決めたら通さなければいけない、と思い込んでしまう方が多いからです。
ガイドラインには、家族が「この段階に入った」と気づいたその時点から支えは始まる、と書かれていました。 迷っていることをそのまま先生に話していい、ということでもあると思います。
⑥ 家で看取るか、病院に頼るか
どちらが良いかを比べたデータは、探しましたが見つけられませんでした。決められる材料が無いので、選ぶときの軸だけ書いておきます。
- 家——慣れた場所と匂いの中で、そばにいられます。ただし急に変化したときの手当ては限られます
- 病院——苦しさへの手当てはすぐ受けられます。ただし面会の時間や環境の制約があります
どちらかに決め切らなくてもかまいません。日中は家で過ごし、つらそうな日は連れていく、という形をとる方もいます。 往診をしてくれる病院が近くにあるかどうかも、一度かかりつけに聞いてみてください。
どちらを選んでも、選ばなかったほうを悔やむ日は来ると思います。それは選択が間違っていたからではありません。
⑦ 夜間・急変時の連絡先を昼間に決めておく
容体が変わるのは、たいてい夜です。夜になってから慌てて調べることのないよう、昼間のうちにやっておきたいことが2つあります。
- かかりつけの動物病院に「夜間や休診日は、どこに連絡すればいいか」を聞いておく
- 案内された夜間救急の場所と、そこまでの行き方を一度調べておく
決めておくだけで、いざというときに迷う時間が減ります。
⑧ 仕事の休み方を先に確認しておく
忌引きは、亡くなったあとに使える制度です。看取りの期間そのものに使える会社は、まだ多くありません。 休む場合の現実的な選択肢は年次有給休暇です。取得理由を会社に伝える法的義務はなく、 「私用のため」で足ります。看病や通院の付き添いにも使えます。
会社によっては、忌引きとは別に通院・介護のための休暇制度を置いているところもあります。 自分の会社にどんな制度があるか、詳しい調べ方と伝え方の文例はこちらのページにまとめました。
⑨ 先に用意しておくもの
その日に慌てて買いに走らずに済むよう、先に家にあると助かるものがあります。
- 保冷剤——多めに。冷凍庫で凍らせておきます
- タオル——保冷剤を包むためのもの。体に直接当てないためです
- 体が入る大きさの箱——用意しておくのがつらければ、寸法だけ測っておくのでも足ります
- ペットシーツ——箱の底に敷きます
保冷剤は、タオルで包んで首元・お腹・おしりの3か所に当てます。安置していられる目安は夏場で1〜2日、冬場で2〜3日です。 つまり、その日のうちに火葬の会社を決めなくても大丈夫ということでもあります。
用意すること自体がつらい方もいると思います。その場合は、この節を読んだ記憶だけ残しておいてください。それでも当日はずいぶん違います。
⑩ その日が来たあとの段取りを、一度だけ見ておく
悲しみの真ん中で調べ始めると、悲しむことと段取りを同時にやることになります。
元気なうち、意識のあるうちに一度だけ目を通しておくと、その日の自分が少し楽になります。 無理に今すぐ決める必要はありません。存在を知っておくだけでも違います。
⑪ 付き添っている、あなたのこと
この時期、飼い主さんは眠れていません。夜中に何度も様子を見て、朝になったら仕事に行って、帰ってまた見て。 それを何週間も続けている方がいます。
先ほどのガイドラインには、家族への支えについての章があります。そこに書かれていたのは、支えが始まるのは亡くなったあとではなく、家族が「この段階に入った」と気づいたその時点からだ、ということでした。まだ生きているうちから始まる悲しみを、資料は予期悲嘆という言葉で呼んでいます。 つらさを抱えている飼い主さんには、心の専門家の力を借りることも選択肢に挙げられていました。
今つらいのは、まだ何も起きていないからではありません。もう始まっているからです。
できるだけ、代わってもらってください。家族でも、友人でも、預けられる病院でも。 夜通し見ていなければいけない決まりはありませんし、あなたが眠った夜に何かが起きたとしても、それはあなたのせいではありません。
この時期にできることは、たいてい思っているより少ないです。そして、してあげられなかったことのほうが、あとになって大きく見えます。 それはもう決まっているようなものなので、今は、続けられる形を選んでください。
残りの日々の過ごし方に、決まりはありません
いつも通りに過ごす人もいれば、写真を整理する人もいます。どちらが正しいということはありません。
がんばる必要はありません。
同じ道を歩いた人の話を見送った人の話で読むこともできます。 もし「そばにいてあげられなかった」と自分を責める日が来たら、このページも置いてあります。
よくある質問
老犬を自宅で看取ることはできますか?
できます。ただし「自宅で看取るか、最後まで治療を続けるか」に正解はなく、かかりつけの獣医師と相談しながら決めることが大切です。自宅で看取ると決めた場合も、容体の急な変化に気づけるよう、定期的な受診や往診での確認を続けることをおすすめします。
呼吸が苦しそうなときはどうすればいいですか?
安静時の呼吸が1分間に40回を超える状態が続くときは、注意のサインの目安とされています。数え方は15秒間の回数を4倍するだけです。苦しそうな様子が見えたら、様子見をせず受診を最優先にしてください。獣医師の判断のもとで、在宅酸素という選択肢が示されることもあります。
看取りのために仕事を休めますか?
休めます。年次有給休暇は取得理由を会社に伝える法的義務がなく、「私用のため」で足ります。実際にペットを亡くして休んだ人の73.3%は1〜2日でした(第一アイペット損害保険調べ・n=1,000)。ペットの忌引き制度を置く会社も実在しますが、看取り期の付き添いに使えるかは会社ごとに違うため、人事や総務に確認しておくと安心です。
亡くなったあと、まず何をすればいいですか?
まずは安置です。保冷剤で体を冷やし、そのあとの火葬をどうするか考えることになります。手順や費用の詳しい内容は当日のためのページにまとめています。
老犬の最期が近いサインはありますか?
獣医療の団体が出している資料を確認しましたが、「最期が近いサイン」の決定版と呼べる一覧は見当たりませんでした。代わりに置かれていたのは、痛み・食欲・水分・清潔・気持ち・動けるか・良い日と悪い日のどちらが多いか、という7項目をその日ごとに0〜10点でつけていく採点表のほうです。残り時間を当てることは誰にもできませんが、今日この子が楽に過ごせているかどうかなら、そばにいる人に分かるからだと思います。
緩和ケアと言われました。もう治療しないということですか?
資料の定義では違いました。緩和ケアは治る病気の子にも行われるもので、症状をやわらげて楽に過ごせるようにする手当て全般を指します。ホスピスと呼ばれる段階は、治すことを目標にした医療から、楽に過ごすことと生活の質を目標にした医療へ、目標のほうが切り替わった状態と説明されています。治療をやめるのではなく、目指す場所が変わる、という書き方です。
家で看取るのと、病院に預けるのと、どちらがいいですか?
どちらが良いかを比べたデータは見つけられませんでした。家は慣れた場所でそばにいられる代わりに、急な変化への手当ては限られます。病院は苦しさへの手当てをすぐ受けられる代わりに、面会や環境の制約があります。日中は家で過ごし、つらそうな日は連れていく、という形をとる方もいます。往診に対応している病院があるか、かかりつけに聞いてみてください。
先に用意しておくものはありますか?
保冷剤を多めに、それを包むタオル、体が入る大きさの箱、ペットシーツがあると当日慌てずに済みます。保冷剤はタオルで包んで首元・お腹・おしりの3か所に当てます。安置していられる目安は夏場で1〜2日、冬場で2〜3日なので、その日のうちに火葬の会社を決めなくても大丈夫です。
治療をどこまでやるか、獣医師にどう聞けばいいですか?
「この処置はこの子が楽になるためのものですか、時間を延ばすためのものですか」「やらなかった場合、これから何が起こりそうですか」「家に連れて帰った場合、私にできることは何がありますか」の3つが軸になります。あわせて「途中で気持ちが変わったら方針を変えてもいいですか」も聞いておくと、後がずいぶん楽になります。
本文で触れた資料
獣医学の専門家ではないので、内容の紹介にとどめています。原文にあたりたい方のために出典を置いておきます。
- 7項目の採点表(HHHHHMMスケール):Quality of Life Scale(PDF)。 Alice Villalobos獣医師が2004年に発表した考え方をもとに、同氏の著書(Blackwell Publishing, 2007)用に表の形にまとめられ、 国際疼痛管理獣医協会(IVAPM)の2011年のガイドライン向けに改訂されたものです。
- 同スケールの見方(各項目5点、合計35点という目安):VCA Animal Hospitals「Quality of Life at the End of Life for Your Dog」(Tammy Hunter獣医師、Robin Downing獣医師。2024年8月14日更新)。このページにも「最期が近いサイン」の一覧は置かれていません。
- ホスピス・緩和ケアの定義、家の環境の見直し、家族への支え:2023 AAFP/IAAHPC feline hospice and palliative care guidelines(米国猫獣医師会・国際動物ホスピス緩和ケア協会, 2023)。猫についてのガイドラインです。
- 呼吸数の目安、安置の作法、休み方の数字は、当サイトの調査(介護・忌引き・当日の各ページ)からのものです。
- 家で看取る場合と病院で看取る場合を比べた統計・研究は、今回見つけられませんでした。
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