高いところに登らなくなったのは歳のせい?——12歳超の猫100頭のレントゲン

最終更新: 2026年8月15日

歳のせいだけとは限りません。12歳を超えた猫100頭のレントゲンでは90頭に関節の変化が写っていた一方、記録に飼い主の心配が残っていたのは4頭でした。ただし写ることと痛みがあることは同じではありません。

  • 12歳超の猫100頭のうち90頭に、関節がすり減ったり変形したりした跡
  • 「動きが鈍い」「足を引きずる」と記録されていたのは4頭だけ
  • 6歳以上の猫100頭を見た別の研究では、61%が1か所以上、48%が2か所以上
  • 猫は足を引きずる形で出にくく、飛び乗るのをためらう形で先に出るとされる

歳を取った猫が、椅子やベッドに飛び乗らなくなる。丸くなって寝ている時間が増える。おだやかになったのだと受け取っていることが、実は体のほうの話であることがあります。

猫の関節について書かれた記事でよく引かれる「高齢猫の9割」という数字があります。その出どころをたどると、90という数字のとなりに、4という数字が並んでいました。

よく言われていること

「高齢の猫のほとんどに関節炎がある」。猫向けのサプリメントや療法食の説明で見かける言い方です。数字としては1990年代のアメリカで行われた調査に行き着きます。

この言い方には、続きが省かれていることが多くあります。省かれているのは「ただし、そのほとんどは気づかれていなかった」という部分と、「写真に写ることと痛みがあることは別」という部分です。どちらも、飼い主が家で何を見るかを決めるのに要る部分です。

その研究は、どう作られたか

動物病院に来た猫のうち、12歳を超えた100頭のレントゲン写真を、あとからまとめて見直した研究です。1人の担当者が、写っている関節ごとに変化の程度を段階づけしています。

後ろ向き研究とは、これから集めるのではなく、すでにある記録をさかのぼって調べる方法のことです。手早く数を集められる代わりに、「なぜその猫が病院に来たのか」を選べません。集まった集団に偏りが入ります。

つまり、健康な猫を集めて撮ったものではありません。何かの理由で病院に来た猫の記録なので、家で暮らしている猫全体を代表する数字ではない点は、はじめに押さえておく必要があります。

それでも、この研究がいまも引かれ続けているのは、同じ100頭について「写真に何が写っていたか」と「カルテに何が書かれていたか」を並べて見た点にあります。片方だけを数えた研究では、この開きは見つかりません。

結果の数字

90頭に関節の変化

100頭のうち90頭に、関節がすり減ったり変形したりした跡が写っていました。肩、肘、股関節、かかとにあたる部分に多く見られたと報告されています。

手足の先ではなく、体幹に近い大きな関節が中心です。歩き方の乱れとして目に見えにくい場所でもあります。

気づかれていたのは4頭

同じ100頭のカルテを見ると、「動きが鈍い」「足を引きずる」といった飼い主からの訴えが記録されていたのは4頭だけでした。

12歳を超えた猫100頭で見つかったもの
何を見たか該当した数
レントゲンに関節の変化が写っていた90頭
カルテに動きの心配が記録されていた4頭

レントゲンに写っていた数と、カルテに残っていた数の差が90対4です。

6歳以上でも6割

もう少し若い層を見た別の研究もあります。6歳以上の猫100頭を調べたところ、61%が1か所以上の関節に、48%が2か所以上に変化を持っていました。高齢になってから急に始まるわけではなさそうだ、という手がかりになります。

気づかれにくい理由

犬なら足を引きずる、きゃんと鳴くといった分かりやすい形で出ることがあります。猫はそうなりにくい、というのが獣医向けの解説での共通した説明です。かわりに、飛び乗るのをためらう、跳ぶ距離が短くなる、といった形で出てくるとされています。

関節症のある猫28頭を見た報告では、4分の3近くが飛び乗りたがらず、3分の2が跳ぶ距離が短くなっていました。足取りではなく、高さと距離に出るということです。

そして、変化がゆっくり進みます。毎日見ている家族ほど、この差には気づきにくいものです。少し高い台を経由するようになった、寝床が上の段から下の段に変わった、といった変化は、性格が丸くなったようにも見えます。「歳を取って落ち着いた」と見えているものが、体のほうの変化であることもあります。

分かっていないこと

レントゲンに写ることと、痛みがあることは同じではありません。90頭に変化が写っていたことは、90頭が痛みをこらえて暮らしていたという意味ではありません。写真の所見と、その猫がどのくらいつらいかは、必ずしも一致しないことが知られています。

また、これは病院に来た猫の記録を後から見た研究です。家で元気にしている猫を無作為に集めた調査ではないので、「高齢猫の9割が関節炎」と一般化して言い切るには無理があります。数字を引くなら、「病院に来た12歳超の猫では」という前置きごと引くのが正確です。

カルテに記録が4件しかなかったことについても、2通りの読み方があります。飼い主が気づいていなかったのかもしれませんし、気づいていたけれど受診の理由が別だったので話題に出なかったのかもしれません。カルテに残っているのは、記録が4件という数字だけです。

それでも、90対4というずれ自体は動きません。見つかりうるものが、ほとんど話題に上っていなかったという事実は残ります。

この研究から使えること

見るのは足取りより「高さ」

家で見るなら、歩き方より高さです。いつも乗っていた場所に上がらなくなった、一段はさむようになった、といった変化は、飼い主にしか気づけません。

ほかにも、次のような変化が手がかりになるとされています。

受診のときの伝え方

「最近、キャットタワーの上まで行かなくなりました」「ソファに飛び乗るとき、前より低い位置から助走します」。このくらい具体的だと、獣医師が診る場所が決まります。

いつごろからかを添えられると、さらに具体的です。半年前の写真や動画が残っていれば、比べる材料としてそのまま使えます。

診断を待たずにできること

家の側でできることもあります。よく通る道に滑り止めを敷く、着地する場所に低い踏み台を置く、トイレの縁を低いものに替える。どれも診断を待たずにできて、外れても害がありません。段差の減らし方は住まいの工夫のページにまとめています。

体重が増えていれば、関節にかかる負担は増えます。食事の量については食べる量と寿命の研究もあわせて読んでみてください。ただし、こちらは犬の研究です。

この数字は、こう誤読されやすい

誤読1「高齢猫の9割は関節炎で痛がっている」

レントゲンに変化が写ったのが9割です。痛みを感じていた猫が9割だったという意味ではありません。写真の所見と、その猫がどのくらいつらいかは必ずしも一致しません。

「所見がある」を「痛がっている」に置き換えた瞬間、話が一段強くなります。サプリメントや療法食の説明では、この置き換えが起きていることがあります。

誤読2「9割だから、うちの子も9割の確率で該当する」

対象は動物病院に来た猫です。何かの不調があって受診した猫が中心なので、家で元気に過ごしている猫より所見が多く出て当然の集団です。

家にいる猫全体を無作為に選んで調べた数字ではないため、そのまま自分の家の猫に当てはめる確率としては使えません。

誤読3「気づかなかったのは、飼い主の観察不足」

カルテに記録が4件しかなかったことには、複数の読み方があります。気づいていなかったのかもしれませんし、気づいていたけれど受診の理由が別だったので話に出なかったのかもしれません。カルテからはそこまで分かりません。

そもそも猫は痛みを見せにくく、変化はゆっくり進みます。気づけなかったことを責める材料には、この研究はなりません。使えるのは、これから何を見るかのほうです。

よくある質問

高齢の猫は、ほとんどが関節炎ということですか?

「レントゲンに変化が写る猫が多い」ということまでは言えます。12歳を超えた猫100頭のうち90頭に所見がありました。ただしこれは動物病院に来た猫の記録を後から見た研究で、家で元気にしている猫を代表する数字ではありません。また、写真に写ることと痛みがあることは別です。

なぜ飼い主は気づかないのですか?

猫は犬のように足を引きずる形で痛みを見せにくいためです。かわりに、飛び乗るのをためらう、跳ぶ距離が短くなるといった形で先に出るとされています。変化がゆっくり進むので、毎日見ている家族ほど「性格が丸くなった」「歳だから」と受け取りやすくなります。

何歳くらいから気にすればいいですか?

6歳以上の猫100頭を見た別の研究では、61%が1か所以上、48%が2か所以上の関節に所見を持っていました。高齢になってから急に始まるわけではなさそうです。ただしどちらの研究も病院に来た猫の記録なので、年齢の線引きの根拠として強いものではありません。

家でできることはありますか?

よく通る道に滑り止めを敷く、着地する場所に低い踏み台を置く、トイレの縁を低いものに替える、といった環境の調整は、診断を待たずにできて外れても害がありません。痛みへの治療については獣医師の判断になります。

受診のとき、何を伝えればいいですか?

足取りより「高さ」の変化が伝わりやすいです。「キャットタワーの上まで行かなくなった」「ソファに飛び乗るとき、前より低い位置から助走する」のように、以前できていたことと比べる形にすると、獣医師が診る場所が決まります。

出典

Hardie EM, Roe SC, Martin FR. Radiographic evidence of degenerative joint disease in geriatric cats: 100 cases (1994-1997). J Am Vet Med Assoc. 2002;220(5):628-32.doi:10.2460/javma.2002.220.628

※この記事の90頭・4頭という数字は、原典の本文にたどり着けませんでした。この論文を引用している後年の査読論文と、獣医向け専門誌の解説の2つで一致を確認しています。査読論文はFrontiers in Veterinary Science 2020、猫の変形性関節症の有病率を扱ったものです。6歳以上100頭の数字はSlingerlandら2011年の研究、28頭の飛び乗りの数字は獣医向け解説からの引用です。(2026年8月14日確認)

ほかの記事

掲載情報の誤りにお気づきの際は [email protected] までお知らせください。確認のうえ速やかに修正します。